ブリンケン、マラぺ、米PNG防衛協力協定に署名

リーク文書が出てその行方が危ぶまれていた米PNG防衛協力協定が昨日5月22日、パプアニューギニアで、バイデンの代行で急遽来訪したブリンケン長官によって署名された。

その協定文書はまだ公開されていないが、米国務省がファクトシートとして文書を公開。機械訳をツイッタースペースで解釈を入れながら読み上げました。

https://twitter.com/i/spaces/1dRKZMLpWBoxB?s=20

インド太平洋ポッドカフェ🏝パプアニューギニア米国防衛協力協定本日締結か🇺🇸ブリンケン長官🇵🇬入り

今回署名された文書は防衛協力とシップライダーズだがパプアニューギニア全体の安全保障をカバーする包括的内容になっている。米国本気である。

 

パプアニューギニアにはブリンケン長官だけでなく、カートキャンベル、アキリーノ司令官も参加している。米国は本気だ。でも80年遅かった。

背景その一 PNGの国内問題と豪州の腐敗

中国がソロモン諸島と締結した安全保障協定に比べ、米国のそれは爪を隠さずにあらゆる軍事協力をボンと目の前に持ってきた。ソロモン諸島には軍隊がないがパプアニューギニアにはある、という違いはあっても米国の本気度を示している。パプアニューギニアの問題を米国は把握しているのだ。それは900の言語、900万を超える人口であり、国内の民族紛争は軍隊の武器の横流しで悪化するばかりである。加えて一向に改善されない国内問題。この署名に合わせたかのように暴露されたマラペ首相も関与する大規模な港湾開発利権汚職。資金は豪州政府から出ており、汚職を主導したのも豪州人である。メラネシア地域、特にパプアニューギニアは豪州の裏庭なのにこの始末なのだ。

背景その二 ソロモン諸島の中国との安全保障協定

米国を動かした直接の理由はソロモン諸島が中国と安全保障協定を締結したことだ。現在中国はソロモン諸島と漁業農業の協定を締結すべく、指導者を北京に呼び寄せている。協定があればそれでソロモン諸島を縛れるのだ。安全保障協定の方は締結後すぐに中国警察官の派遣、武器の支給など大きく動いていた。安全保障におけるソロモン諸島の中国への接近はソロモン諸島だけのではない。太平洋、いやインド太平洋の安全保障を脅かす問題であった。

 

背景その三 フィジーのランブカ首相の手腕

16年続いたバイニマラマ軍事政権に終止符が打たれランブカ首相が返り咲いた。その詳細をなかなかお伝えできないが、ランブカ首相は中国と距離置くことを明確にしている。米国との関係は明確にしていないが、少なくとも米国が好む行動を取っている。それだけではなくインド系フィジアンとの和解の儀式を行い、モディ首相、ブリンケン長官のパプアニューギニア入りに合わせパプアニューギニア入りしたランブカは、パプアニューギニア軍との交流などメラネシア地域全体の安全保障の流れを変えようとしている。それほどパプアニューギニア軍と本来それを支える豪州軍は問題が多いのだ。そもそもフィジーをPIFから追い出し中国に近づけたのは豪州政府であった。

背景その四 豪州の限界

現場の安全保障に接しないと得られない情報なのだが、米国の太平洋進出を拒んでいるのは中国だけではなく豪州なのだ。私がミクロネシア海洋安全保障事業を2008年に立ち上げた時、ヒステリックに反発したのが豪州王立海軍であった。ところがその豪州はここ数年の米国の関与に同じような反応を示している。この情報は表に出てこない。現場にいないと得られない情報である。豪州とNZは自分達がメンバーのPIFだけでまとめたい、米国を入れるな、と。しかし、ミクロネシア三カ国に関して安全保障を米国抜きで語ることは不可能だ。ミクロネシア五カ国のPIF離脱問題で、多少バランスの調整があった。すなわちPIFの北寄りの動きだ。

私は至る所で述べるようにしているが、豪州は台湾と同じ人口でその海軍は台湾の三分の一しかいない。豪州を攻めるべきではない。冷戦終結後、米国の姿が消える中でよくやってきたのだ。しかし、造船業界は防衛大臣からカヌーもまともに作れないと批判され(大臣は更迭されたが)るほど。隣にミサイルを飛ばす北朝鮮はいないが、難民がインドネシア経由で年間数千人と入ってくる。広大な沿岸警備と世界の紛争地帯の派兵だけでも大変なのだ。NZはパプアニューギニアの人口の半分でさらに広大な海洋を管理している。米軍の友人がNZ軍の能力を高く評価していたが、キャパシティの限界は事実だ。

 

さて、米国を、ブリンケン長官をこれほどまで真剣にさせたのはミクロネシア三カ国である。同じパプアニューギニアでパラオと米国の自由連合協定文書が署名された。ブリンケン長官を震えあがらせたのがウィップス大統領なのだ。ブリンケン長官だけではない。インド太平洋司令軍でさえ黙らせたという武勇伝を聞いている。結果、当初米国が提示した2倍以上の支援金をパラオは得た。確かFSMもこの場で署名しているはずである。この件も近々書きたい。